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随想録

臨床泌尿器科編集後記Vol.69.No.7, 2015

 第103回日本泌尿器科学会総会が金沢で行われました。質量ともにとても充実した内容で、学会員のみなさんも満足して帰られたことと思います。

 学会コンセプトのひとつに“若手泌尿器科医師に夢と希望を!”が掲げられていましたが、並木幹夫会長の肝入りのメイン企画として、“若手医師企画 夢を信じて、未来の泌尿器科を語ろう”が4月20日に開催されました。本企画は、準備から進行まで、全国から選ばれた若い泌尿器科医11人による手作りのすばらしい企画でした。特に第1部では、若い医師が必ず悩む、研究・大学院進学・留学・論文作成・手術習得・ワークライフバランス・結婚・育児と仕事の両立などについて、彼らが事前に行ったアンケート調査の結果に加え、アンケートアナライザーシステムを用いた工夫を凝らしたプレゼンテーションがなされ大盛況でした。若手対象の企画であったにも関わらず、多くの教授や名誉教授の先生方が参加されており、注目度も高かったのだと思います。

 私自身を振り返ると、本企画で話題になっていた、“手術の技術をいかに学ぶか?”という同じ悩みを抱えていました。私の場合、医師になって3年目から5年目までは、基礎研究に専念していたため、この2年間は週に1回外来とESWL当番を行う以外は、臨床に接する機会がありませんでした。同期入局の友人たちがいろいろな手術を経験していることを聞くたびに、焦りを感じざるを得ませんでした。先輩には、“いつでもできるようになるから焦るな”と言われていましたが、今の若い先生に同様の相談を受けたときには、同じ助言をしています。

 この企画の第2部で私が自らの経験をもとに、若い先生にメッセージを送る発表の機会をいただきました。確かに手術の習得には、環境が大きく左右します。必ずしも手術がたくさん経験できる病院に勤務できるとは限りませんし、今日泌尿器科がこれほど広い範囲の疾患を網羅している診療科である以上、自分が満足できる件数をすべての手術において経験できることはほとんどありません。私の発表の中でも話ましたが、京都吉兆の総料理長の徳岡邦夫さんは、若い料理人たちへのメッセージとして“漫然と経験を重ねるだけでは意味がありません。大切なのは、経験の量ではなく、ひとつひとつの経験から何かを学ぼうとする問題意識です。”と述べられております。若い先生の技術習得のヒントになるのではないかと思います。

 さて4月20日の夜は、企画した若い先生達とともに、企画の打ち上げ会に参加し、おいしい魚とお酒を堪能しながらさらに話が盛り上がりました。本誌2015年3月号の編集後記で、“新医師臨床研修制度が始まって以降、一部の若い先生が小手先の知識や技能ばかりを追い求めることに終始し、自ら立ち止まって物事を深く探求しようとする学問的姿勢が疎かになっているのではないか”と述べました。しかし、少なくともこの企画に携わった彼ら彼女らは、問題意識を持ちながら日々臨床や研究に真摯に研鑽を重ねているからこそ、本企画を大成功に導いたのだと思います。とても清々しい気持ちになり、翌日、新車両の匂いが漂うぴかぴかの新幹線に飛び乗り、金沢をあとにしました。

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