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随想録

臨床泌尿器科編集後記vol.72.No.7, 2018

外科医の醍醐味は、手術というダイナミックな医療技術によって、劇的な治癒を実現することです。しかし、それが失われる時代がそこまで来ているかもしれません。

The future of employment; How susceptible are job to computerisation?(雇用の未来; コンピュータ化によって仕事は失われるのか?)2014年にOxford大学の人工知能(AI)研究者であるMichael A. Osborne氏らが発表した論文です。本論文では、10〜20年で多くの職業がAIに置き換わり、雇用者の47%の仕事が消滅するという衝撃的なデータが発表されています。将来消滅するであろうとされる職業は、スーパーのレジ係、銀行窓口係、医療事務員などが予想されているようです。

医療分野においても、間違いなくAIの波は押し寄せています。米国Memorial Sloan-Kettering Cancer Centerが、AI型コンピューターWatsonを用いて、60万の医療報告書、150万の患者データや臨床試験、延べ200万ページの医学雑誌等を分析し、患者さんの症状や遺伝情報、治療歴などの医療情報を入力することで、患者さん個々の最適な治療計画を作成することに成功したと発表しています。すなわち診断技術も、今後AIに容易にとって代わられる可能性が高いと考えられています。

一方、Osborne氏らの論文の中では、将来生き残る可能性が高い職業の1つに、外科医が記載されています。AIを搭載した医療用ロボットが発達したとしても、データのみでは網羅できない多くの複雑な個々の患者さんのバリエーションは、手術中には完全に読み取ることができないということが理由なのかもしれません。しかし、AIの高度に洗練された機械学習(deep learning)が、個々によって特徴的な患者情報を手術時に瞬時に認識し対応することを可能とし、外科医の技術を完全に凌駕する日がくるかもしれないと最近思うようになりました。

近年、数々の技術革新が医療現場に持ち込まれました。少なくてもこれらの技術革新は、現時点では効率的な医療提供の一助となり、医師・患者さんともに多大な恩恵を受けています。しかし今後、想像を超える著しい技術革新が、私たちの職を奪う可能性があります。私たちにできることは、その技術革新に取り残されることなく、上手に適応しながら、最善かつ最先端のそして“心の通った“医療を患者さんに提供することだと感じる今日この頃です。

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