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随想録

臨床泌尿器科編集後記vol.73.No.10,2019

医学部入試の面接試験で、「医学部を志望した理由は何ですか?」という定番の質問があります。そしてその質問に対して、時々遭遇する受験生の解答は、「家族が病気になったとき、家族を救えるような医師になりたいと思い、医学部を志望しました。」です。面接官として、よりよい受験生に入学してもらいたいと必死な私は、(ある意味心が捻じ曲がっているのかもしれませんが)、高校や予備校での特訓の末に身に着けた受験生の解答術に騙されないよう、その“模範解答”の中に隠されているであろう受験生の心の奥底を一生懸命探ろうとします。しかしかくいう私は、そんな「家族のために」などという高い志を持つこともなく医学部を受験し、そして現在医師をしています。

さて私ごとですが、先日母親が地元近くの病院で、虫垂癌の膀胱浸潤と診断され、TURBTで組織診断をされたのち、腸切除術と膀胱全摘除術を受けました。半年以上前から頻尿と血尿があったようですが、近くの開業医で抗生剤を処方され続けていたという、浸潤性膀胱癌ではありがちな話です。さしたる高い志をもつことなく医師になった私にとっても、家族が大きな病気になったという事実とともに、母親が膀胱全摘除術を受けたという事実は、疾患が膀胱癌ではなかったものの、泌尿器科医としては大変ショッキングなことでした。

主治医に許可を得て、主治医から母親への説明の前に、私から直接本人に病状を説明しました。私は医師の家系ではないので、おそらく医師になってから、家族は私に対して様々な期待をしていたような気がします。しかし気づいてみると、私の母親への説明は、家族としてではなく、一般の患者さんに対する医師としての淡々とした説明になっていました。そして帰宅の途についたバスの中で、そのような説明しかできなかった自分を責めました。しかしながら、術後に母親がせん妄やイレウスになった時も、そしてストーマ交換について相談された時も、私はやはり家族ではなく医師でした。

家族だけではなく、いずれ自らも命に関わる病魔に侵されることもあるのだろうと思います。その時に、医学・医療の知識をもつ私たちは、一般人と違った向き合い方になるのだと思います。医師として家族として母親とどう向き合えばよかったのか。今後自分や家族が病気になった時の向き合い方はどうあるべきなのか。残念ながら、私にとっての“模範解答”は今のところ見つかっていません。

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