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随想録

臨床泌尿器科編集後記 vol.74. No10 ,2020

コロナ禍は一向に収まりそうもありません。今日テレビを見ていたら、“新型コロナウイルス「世界初」の再感染”との報道がありました。香港在住の患者が2回コロナ感染し、感染した1回目と2回目のウイルスの株が異なるとのことです。コロナウイルスは変異株を増やしながら凄まじい勢いで世界中で猛威を振るってきましたが、ウイルスの立場からすれば、生き残るための環境に適応する手段なのかもしれません。そういえば、私達が日常診療で治療する腎癌や膀胱癌や前立腺癌も、遺伝子変異によって薬物治療に抵抗し続けます。

小学生の夏休みに毎年「ひとり一研究」という宿題を課せられました。理科の実験や観察を自宅で行ってまとめるという宿題です。私は「あげはの観察」を行うことにしました。アゲハチョウには様々な種類がいますが、いわゆるアゲハ(ナミアゲハ)は、みかんや柚などの柑橘類の葉に卵を産み、幼虫はその葉を食べて成長していきます。一方、キアゲハの幼虫はパセリやニンジンの葉を食します。クロアゲハの幼虫はアゲハと同様柑橘類の葉を食しますが、アオスジアゲハの幼虫はクスノキ科植物を食草とします。(ちなみにアオスジアゲハの羽は鮮やかなパステルカラーに透き通り、飛ぶ姿は優雅で美しく私がもっとも好きなアゲハです。)同じアゲハにも関わらず、種類によって幼虫の食草が異なるのは非常に興味深いことです。そこで小学生の時、パセリを食するキアゲハの幼虫に、飼育箱の中で柑橘類の葉のみを食べさせ観察することにしました。結果は40年以上も前のことで定かではありませんが、確かやせ細りはしたものの、キアゲハの幼虫も柑橘類の葉を食し、成虫になったと記憶しています。大げさな言い方ですが、おそらく進化の過程でアゲハから遺伝子変異して生まれたキアゲハも、遥か遠い過去の記憶を蘇らせ、瞬時に環境に適応したのだと思います。

この観察は父親の発案でしたが、その父親も昨年の12月に他界しました。遺品の整理の際に、40年以上前の「あげはの観察」がきちんと製本され、父親の書斎に保存されていると聞きました。父親の厳格な指導のもと泣きながら行った観察でしたが、現在の私の研究に対する考え方の礎になっているような気がしています。観察結果の詳細は不確かなので、コロナ騒ぎが収まって岐阜県の実家に帰った時に、製本された「あげはの観察」をゆっくり読んで、もう一度研究意欲をかき立ててみようと思っています。

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