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随想録

臨床泌尿器科編集後記 vol.76. No 7 ,2022

私の職場の部屋の壁に、Edward Hicksの「平和の国」という絵のアートポスターが飾ってあります。「平和の国」は、旧約聖書の一書であるイザヤ書第11章にある「狼さえも子羊と住まい、豹は子供の横に伏し、子牛、若き獅子、肥畜も集い、幼き子が彼らを導く」という句を描いたものです。ポスターの片隅に「To Yoshiyuki Kojima, My good friend and esteemed colleague. May we always be friends and collaborators. Best, Douglas A Canning and family!」と直筆のサインが書かれています。このポスターをプレゼントしてくれたのが、ペンシルバニア大学・フィラデルフィア小児病院のDouglas A Canning教授です。そのCanning先生が去る5月30日に自転車事故で他界しました。

13年前、腹腔鏡下手術やロボット支援手術の勉強するためにフィラデルフィア小児病院に留学しました。留学中は、手術もさることながらCanning先生との出会いは私にとって衝撃的なものでした。同僚や部下、medical staffに対してはもちろんのこと、一介の留学生にすぎない私に対しても、細やかな最上級の心遣いをたくさんいただき、それは帰国後も続きました。私の人生における出会いの中で最も尊敬できる人でした。

留学中の12月25日に、自宅でのクリスマスパーティーに招待して下さり、その時いただいたプレゼントが「平和の国」のアートポスターです。「肉食獣も草食獣も人も、相容れないものたちが同じ場所で生活する。それが理想の国なんだ」と説明してくれました。

彼が私にくれたプレゼントはもう一つあります。ペンシルバニア大学のオリジナル・ネクタイに、Magpieという鳥が刺繍されているものです。Canning先生の前任の教授は、米国で「小児泌尿器科学」という学問体系を確立したJohn W. Duckett先生です。Duckett先生が開発した尿道下裂の術式の1つにMAGPI法があります。MAGPI法にちなんで、Magpieをフィラデルフィア小児病院泌尿器科のシンボルとしているとのことです。帰国する私の送別会で、「Magpieは決して一羽で生きていけない鳥で、集団で生活している。Magpieのようにチームワークで医療をする。それがモットーなんだ」と説明してくれ、最後に「日本の小児泌尿器疾患を抱えるこどもたちのために身を捧げよ」と言われたことが昨日のことのように思い出されます。

何も恩返しができないまま彼は旅立たれてしまいました。いまだに受け入れることができません。しかしCanning先生からいただいた数々のご恩を胸に刻み、彼の遺志を少しでも引き継ぐことが、私に与えられた使命ではないかと思っています。Canning先生のご冥福を心からお祈りいたします(合掌)。

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