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随想録

臨床泌尿器科編集後記 vol.77. No 3 ,2023

皆さん、「ぐぐるプロジェクト」ってご存知ですか?「ぐぐる」とは、「つむ、つな、つたわ。」の語尾をとった造語のようです。環境省が、福島第一原発事故以降、放射線に係る健康影響への不安を抱える住民等に対するリスクコミュニケーションを実施するとともに、放射線の健康影響に関する風評を払拭するため、正確な情報を全国に発信するために立ち上げたプロジェクトです(環境省HP引用)。

先日「ぐぐるプロジェクト」のひとつである「ラジエーションカレッジ公開講座」にパネリストとして参加しました。本公開講座は、学生や社会人向けに、放射線の健康影響や差別・偏見のない社会づくりに関するトピックを取り上げる環境省主催のセミナーです。今回は「“安全”ということを伝えることの難しさ」をテーマとしており、アカデミアの視点で科学論文の問題点と正しい情報を伝えることの難しさについてコメントしました。デザインや結論が誤った論文が世の中にたくさんあり、それに対する反論論文や反論コメントもたくさんあるにも関わらず、誤った論文でもインパクトが強いと先行してマスコミ報道されやすい一方で、その反論論文は報道されることはありません。そのため一般の人々の誤解を招き結果として風評被害を招くことを、具体的な事例をあげながら説明しました。パネルディスカッションのあと、教育用講演ビデオの録画撮影も合わせて行いました。「正しい科学論文の読み方―科学的根拠とその落とし穴−」というタイトルで、科学論文の作成・査読過程、科学論文の問題点、査読の限界や論文の正しい読み方について講演しYouTubeで配信されています。2019年に行われたアンケート調査によると、東京都民の約40%が、福島県民から先天異常の子供が生まれてくると誤解をしているようです。驚愕の結果で、まさに風評被害そのものです。私の講演も、一般の人々に情報を読み解く力と風評にまどわされない判断力を身につけていただくことを目的としたものでした。

震災の翌年、2012年に福島県に一泌尿器科医として着任しました。しかし福島県に対する風評被害を目の当たりにし、そしてそれが誤った科学論文によってもたらされていることを知り、ある種の使命感が湧き、最近このような仕事に関わることが多くなりました。福島県に対する風評被害は絶対に看過できません。今後もライフワークの一つとして、風評被害払拭のため微力ながら貢献していきたいと思っています。

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